ファッションの一環も軽やかで好感
今、中国でもZ世代に注目が集まっている。Z世代の定義にはいろいろあるようだが、基本的には1995~2009年に生まれた世代。中国に限らず、世界的に見ても「それ以前とは異なる価値観・特徴を持つ、新しい消費者」として注目されている世代である。
中国のZ世代は人口2.6億人、その支出は4兆元(約60兆円)といわれていること、また95、96年生まれを中心に就職にともなって、上海など都市部に集まってきていることから、多くのブランドが取り込みに動いている。
ただ、中国社会では3、4年前から本格的なZ世代の研究が進められているのに対し、日本企業においては今、徐々にそこに目が向いているような状況であり、情報格差を感じている。そんな中国のZ世代をテーマにしたウェブセミナーを当社では7月に開催、不肖ながら私も講師の一人として登壇した。
40歳を超えている私が20代社員とともに中国の若者について語るという、非常にハードルが高い内容だったが、反響は上々、これからの中国社会により興味が増したウェブセミナーとなった。
さて、中国Z世代の流行で面白いのが「漢服」である。これは、中国伝統の服装を楽しもうというもの。中国伝統の服といえばチャイナドレスを思い浮かべる人も多いが、それは満州族の服をベースに近代的にアレンジされた姿であり、清朝から中華民国時代に広がったもの。ここでいう漢服とは、漢王朝や唐王朝など、漢民族にとっての華やかな時代の服装のこと。特にこの漢服は愛好家が多く、日本に留学している中国人留学生の間でもサークルが存在している様子である。
こうした中国の若者の伝統的なものへの興味というのは、非常に大きな変化である。それ以前は海外志向、特にファッションでは欧米志向が強かった。さらに言えば「伝統」や「古いもの」は骨董(こっとう)品のような市場価値があれば別だが、なかなか顧みられなかった。それが今、クローズアップされているのは喜ばしいことであると感じられる。
ただ、よく見ると彼らにとっての伝統文化は、いわばファッションであり、流行であり、自己表現であるようだ。漢服をまとい、集まり、写真を撮ってSNS(会員制交流サイト)にアップするという「遊び方」がほとんど。そこから専門的な民俗学や当時の生活、価値観などを学んでいこうという姿は少ない。
残念ながら中国では伝統文化や技術を封建的なものとして否定した時期があり、そしてのちにその商業価値が認められ「商品化」されてきた。彼らが目にしてきた中国の伝統文化の多くは、そうした「商業化された伝統」であり、装飾された表面だけだったのではないか、流行を追う彼らにはそれで十分だったのでは、と思えてしまう。
私自身が歴史学出身であるせいか、これらの現実に気づいたときには若干の物寂しさを感じてしまったが、伝統文化を軽やかに明るく、健全に楽しんでいる姿を見ると「まぁそれもありか」と感じる。何はともあれ中国新世代のパワー、次は何を生み出してくれるのか興味は尽きない。
【プロフィル】森下智史
もりした・さとし 中国トレンドExpress編集長。1998年2月から2015年5月までの17年間、中国・上海に滞在。上海では在留邦人向けのフリーペーパーの編集・ライター、産業調査などに従事。帰国後の18年1月に日中間の越境EC支援会社トレンドExpressに入社し、現職。
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August 12, 2020 at 03:00AM
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