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「急成長」と「会社のガヴァナンス」を両立せよ! ウェルスナビCEO柴山和久が語る、金融機関とスタートアップの理想的な関係 - WIRED.jp

伝統的な金融機関によるスタートアップ支援の動きが進んでいる。三菱UFJ銀行は、法人向けインターネットバンキング「BizSTATION」のスタートアップ向け無料キャンペーンを実施。その魅力については第一弾の記事で取り上げたが、今回は「BizSTATION」の利用者でもある「ウェルスナビ」を訪ね、金融機関とスタートアップの理想的な関係を探っていく。

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金融領域におけるイノヴェイションのひとつとして「ロボアドヴァイザー」は注目されてきた。投資家の代わりにアルゴリズムが資産運用するサーヴィスの総称であり、なかでもノーベル賞受賞者が提唱する理論に基づくアルゴリズムを利用した、全自動のおまかせ資産運用サーヴィスを提供するのがウェルスナビだ。

ウェルスナビは全自動で国際分散投資ができるロボアドヴァイザー「WealthNavi」、買い物のおつりで積立投資ができる「マメタス」というふたつのサーヴィスを提供してきた。2020年7月には資産運用サーヴィスの預かり資産が2,600億円を超え、口座数は31万に達した。

「資産運用」と聞いても、どこか他人事に感じてしまうかもしれないが、ウェルスナビは働く世代をターゲットに「長期・積立・分散」の資産運用をサポートし、事業を成長させてきた。創業者として会社を率いる柴山和久への取材は、新型コロナウイルス感染症が資産運用に与えた影響というトピックから始まった。

「老後2,000万円問題」というトリガー

柴山和久|KAZUHISA SHIBAYAMA
1977年生まれ。東京大学法学部、ハーバード・ロースクール、INSEAD卒業。ニューヨーク州弁護士。日英の財務省で合計9年間、予算、税制、金融、国際交渉に参画。その後、マッキンゼー・アンド・カンパニーに勤務し、10兆円規模の機関投資家をサポートした。「誰もが安心して手軽に利用できる次世代の金融インフラを築きたい」という想いから、プログラミングを一から学び、2015年4月にウェルスナビを設立。2016年7月にロボアドバイザー「WealthNavi(ウェルスナビ)」をリリース。主な著書に『元財務官僚が5つの失敗をしてたどり着いた これからの投資の思考法』。

──今回のコロナ禍で社会の不確実性はより増していき、長期的な視野での資産運用が重要になった印象があります。「WealthNavi」の利用者は増えているのでしょうか?

そうですね。ウェルスナビの創業以来、お客様は毎月増え続けており、傾向が大きく変わったわけではありません。株価が大きく変動するときに短期的なリターンを求めて取引する性質のサーヴィスではないですからね。

ただ、資産運用はより長期目線になっていくだろうと感じています。今回のコロナ禍で株価が下がり、どのようなタイプの投資にもかかわらず、一時的に資産が減ってしまった方が多いはず。日本の投資家の場合、相場が下がるとパニックになり資産運用をやめてしまうのではないか、と伝統的に言われていました。

しかし、今年の2月に相場が下がったときに、WealthNaviのお客様の94.8パーセントは継続したんですね。むしろ、追加で資産運用のために入金した方が12パーセントもいたんです。わたしたちのお客様は冷静で、長期的な目線で資産運用をしている印象を受けました。

言い換えれば、今回のコロナ禍をWealthNaviの94.8パーセントのお客様が乗り越えたことになります。「長期・積立・分散」により危機を乗り越えたという事実が一人ひとりとって大きな自信になったはずですし、それがまわりの方にも拡がっていくといいなと思っています。

ただ、内心パニックになった方も多いとは思いますよ。わたしもお客様に対してヴィデオレターを出しましたし、コラムの執筆やオンラインセミナーなどを通じたコミュニケーションを密にする取り組みを続けた結果、長期的な視野で取り組むマインドセットが醸成されたのだと考えています。

──サーヴィスのリリースから約5年が経つと思うのですが、働く世代の資産運用に対する価値観は変化してきたと思いますか?

豊かな老後のためには働く世代が資産運用する必要があることが、ここ5年でだいぶ広まってきたと思います。象徴的な出来事が、昨年夏の「老後2,000万円問題」ですね。老後に備え、年金以外に2,000万円が必要になるという金融庁の報告書がメディアに大きく取り上げられ、資産運用の重要性が認知された出来事です。

その一方で、どのように運用すべきかという具体的な部分はまだ充分に拡がっていません。WealthNaviは口座数31万、そのなかでも運用されているものが20万ほどなので、まだまだ頑張らなければならないと思っています。

──そのユーザーとは、どのような人々なのでしょうか?

創業当初は投資経験者が9割を上回っていましたね。属性としては、金融や医療関係の方、弁護士、経営者などが多かったです。しかし、いまでは約3割が投資未経験で、WealthNaviで初めて資産運用をする方々です。その数字からは資産運用に対する価値観の変化を感じますね。

パンデミックは銀行の社会的役割を浮き彫りにする

──今回のコロナ禍において、金融の公共的な価値はどのように変化していくと考えますか?

いまさら説明するまでもないかもしれませんが、金融の本質的な価値は仲介機能にありますよね。資金が余っている主体からお金を預かり、資金を必要としている個人や企業に提供する。金融機関はその間に立ち、リスクとリターンをうまくフィットさせているわけです。

今回のコロナ禍で売上が急減した業種や業態がありますが、その主体に対して金融機関が融資を進めています。日本だけではなく、世界的に見ても経済危機における貸し手としての金融機関の役割は強くなったなと思います。それは伝統的な金融機関が担うべき役割であり、フィンテックスタートアップができることではありません。だからこそ、本質的な役割の大きさが改めて注目されたとも言えますね。

──それでは伝統的な金融機関に対して、ウェルスナビのようなスタートアップが提供する金融サーヴィスの価値とは何だと考えていますか?

金融機関の役割が本質的に変わらないなかで、いま何が変わっているのかというと、その届け方だと思います。20代の方々は“スマホネイティヴ”世代であり、スマートフォンでさまざまなサーヴィスが完結しています。そういった新しいお客様に対して、新しいかたちでサーヴィスを提供する必要がある。「Monzo」や「Revolut」などのチャレンジャーバンクもそうですし、わたしたちが提供するWealthNaviも、日本で終身雇用が崩れ、それまでになかった新しいニーズが生まれたので、スマートフォンアプリという接点で金融サーヴィスを提供しているわけです。

──それが金融におけるイノヴェイションなのでしょうか。

そうですね。あくまでテクノロジーは手段であると考えています。ウェルスナビも社員の約半分はエンジニアやデザイナーであり、テクノロジー中心の金融機関です。でも、テクノロジーは目的ではなく、よいサーヴィスをお客様に提供するための手段にすぎません。言い換えれば、テクノロジーを活用しなければ新しいお客様に従来までのサーヴィスを提供できないわけで、そのギャップを埋めていくのがイノヴェイションだと捉えています。

「急成長」と「会社のガヴァナンス」の両立

──フィンテックスタートアップが事業成長させるうえで、伝統的な金融機関との協力関係も重要だと捉えています。ウェルスナビと三菱UFJフィナンシャル・グループなどの伝統的な金融機関のかかわりは、これまでどのようなものでしたか?

わたしたちは2015年の4月に創業し、11月にシリーズAの資金調達を実施しました。その際に三菱UFJキャピタル、SMBCベンチャーキャピタル、みずほキャピタルから出資を受けています。同じタイミングで三菱UFJ銀行の法人口座を保持し、取引を始めました。いまでは非常に幅広く利用させていただいており、法人口座のほかにも口座振替サーヴィスを通じてお客様がWealthNaviで資産運用をしています。

──メガバンクから出資を受けることは重要だったのでしょうか?

スタートアップに最も欠けているのは歴史と信頼ですので、信頼性の担保という点で重要でした。株主に伝統的な金融機関に入っていただくことで、スタートアップとしての成長と安定した財務基盤やコンプライアンス体制の構築を目指しました。そのため、取締役会にもオブザーヴァーとして参加いただいていています。

スタートアップの場合、安定せずに急成長を目指す企業も存在しますよね。でも、信頼性が重要なフィンテックスタートアップの場合は、会社のガヴァナンスや安定性を確保しながら急成長を目指す必要がありました。なので、株主としてテクノロジー系のヴェンチャーキャピタルとメガバンクに入っていただいたのは、とてもバランスがよかったと思います。

ウェルスナビの場合、金融の専門家とテクノロジーの専門家が経営陣、株主、従業員のすべてのレイヤーで均等に存在するように組織を設計していますね。

──メガバンクによるスタートアップ支援という点ではいかがでしょうか。

最も重要なのは、融資ですよね。スタートアップが成長していくうえで、バランスシートが最適化されていることは非常に重要だと思っています。スタートアップと聞くとヴェンチャーキャピタルからのエクイティの印象が強いですが、銀行からのデッドでの調達を組みわせることが大事です。コロナ禍で苦境に陥っている業界のスタートアップに融資をしている銀行もあると思うのですが、それには社会的意義を感じます。

──メガバンクによるスタートアップ支援の一例として、三菱UFJ銀行が法人向けインターネットバンキング「BizSTATION」のスタートアップ向け無料キャンペーンを実施しています。基本手数料が一定期間無料という点は資金面で余裕のない多くのスタートアップにとってメリットがあると思いますが、このようなサーヴィスを利用するメリットに関して柴山さんはどのように考えますか?

スタートアップが資金管理をおこなう上で、セキュリティは非常に重要だと思います。ウェルスナビは金融機関なので経理チームが大きいものの、わたしたちも創業当初は小さなチームでした。多くのスタートアップは経理チームが小さいところからスタートするわけですが、BizSTATIONのようにセキュリティレヴェルの高いサービスを使っていくことは非常にメリットがあるかなと思っています。

──スタートアップを立ち上げたばかりの経営者に対して、銀行とのかかわりという点でアドヴァイスをいただけますか?

そうですね。スタートアップの方は出資してくれたヴェンチャーキャピタルの方と同じくらいの頻度で、銀行の方とコミュニケーションをとることをオススメします。ヴェンチャーキャピタルの場合は、取締役会にオブザーヴァーとして参加し、会社の成長や財務状況をチェックすると思うのですが、銀行員でそれをやる方は少ない。

もし今回のコロナ禍で銀行に助けを求めようとしても、常日ごろから財務状況をレポートしていなければ、融資の際の判断基準がなくなってしまう。なので、銀行の方に積極的に情報を提供することは大事だと思いますよ。

まずプログラミングを学べ!?

──一方で、金融機関で働く人々がスタートアップと接する上で心がけるべきことは何でしょうか?

メガバンクの方々と接していると、スタートアップに関する知見を非常にはやいスピードで蓄積されている印象を受けます。取引や融資、共同サーヴィス開発の経験を積むほどに、スタートアップに対するサポートのレヴェルも上がっていくと思うんですね。知見や経験のベストプラクティスが銀行内でシェアされていくといいと思います。

──テクノロジーに対するリテラシーという部分ではいかがでしょうか? 柴山さんはウェルスナビの創業前に「TECH::CAMP」でプログラミングを学ばれたんですよね。

懐かしいですね(笑)。5年ほど前にプログラミングをゼロから学び、ウェルスナビのプロトタイプをつくりました。非常につらい1カ月だったのですが、スタートアップを金融という立場から支援するのであれば、プログラミングを学ぶことは重要だと思いますね。本当に大変なので、その大変さを理解するだけでも目の前の景色が変わるはずです。

──今後、三菱UFJ銀行を含むメガバンクとの協業のアイデアというものはありますか?

いま日本全体で個人の金融資産は約1,800兆円あると言われています。そのなかで長期・積立・分散で運用されている資産はまだわずかです。サーヴィスを普及させるには時間がかかりますし、1社だけでできることではありません。ぜひ伝統的な金融機関の方と協力して取り組めるとよいなと思っています。

グローバルの水準でも、わたしたちの企業の成長スピードは速いのですが、それでもなお市場に対して小さすぎるんです。だって、預かり資産1兆円でも個人金融資産の0.05パーセントですから。これでは、社会を変えられません。5年や10年のスパンで新しい産業をつくるつもりで取り組んでいきたいと思いますね。

三菱UFJ銀行 BizSTATIONスタートアップパッケージ

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July 15, 2020 at 08:00AM
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