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社説 考ともに 読書文化をつなぐ 本を囲む楽しさ知ろう - 信濃毎日新聞

 テーブルの上には飲み物をついだグラスと一緒に、付箋を何枚も挟んだ文庫本が並ぶ。土曜の午後7時すぎ、岡谷市中心街の飲食店に7人の男女が集まった。

 「岡谷で読みつむぐ会」の書評会だ。持ち寄ったのは藤原伊織さんの「テロリストのパラソル」。順に感想を述べ合うと、好きなハードボイルド小説から映画、音楽へと話題が広がっていく。

 昨年秋に数人で始めた。まちづくりやボランティア活動のつながりから少しずつ仲間が増え、今は30〜60代の13人。子ども食堂の運営に関わる人の提案で、貧困問題を描いた中島信子さんの児童文学「八月のひかり」も読んだ。

 普段読まないジャンルの面白さを知った。自分で消化しただけでは分からない発見がある…。会員は本を読み合う楽しさを語る。

 きっかけは市内の笠原書店が一昨年秋に始めた「岡谷のあの人が選んだこの1冊」フェアだった。行政や企業の関係者、学校の図書委員らの推薦する本を展示した。その1冊に関心を持った人たちの間で読みつむぐ会が出来た。

 社長の笠原新太郎さん(58)は「本を通じた人と人の出会いの場づくり。うれしい反響です」と、企画に手応えを感じている。

 読書離れが進む。本が売れない―。出版不況が叫ばれて久しい。

 全国出版協会によると昨年の書籍の推定販売額は1990年代半ばのほぼ4割減だ。新刊の数は7万点を超え、当時より多い。1点当たりの販売が激減している。

 良い本を作りたい。売れる本も出したい。今春まで4年、社内の出版部にいた筆者もこの難題と向き合った。

 今あらためて本をめぐる状況を見渡すと、悲観する要素ばかりでないことにも気付かされる。

 コロナ禍の春以降、児童向けを中心に巣ごもり需要が高まった。笠原さんは「紙の本は必要とされている。失いかけていた自信を少し取り戻せた」と振り返る。

 笠原さんら県内書店の有志は、秋に諏訪湖周16キロをたすきリレーで走る会を10年来続ける。出版や取次、印刷の会社にも呼び掛け、新企画を模索する。今年は休んだが昨年は約70人が集まった。

 「つなごう読書の絆」。そろいのTシャツに印刷された筆字は塩尻市の中島書店社長、中島康吉さん(63)が書いた。「作家から読者まで、本に関わる全業種の人々でつなぐ」。その決意が読書の2文字に込められている。

 塩尻市立図書館の職員も参加している。新しい出版文化の創造と発信を掲げる「本の寺子屋」の活動が9年目を迎えた。

 安曇野市在住の編集者、長田(おさだ)洋一さん(75)が講師の推薦などに協力。著名な作家を招き、ワークショップも開く。年間十数回の講座は市民らが文芸の醍醐味(だいごみ)に触れる貴重な機会だ。昨年は最多の延べ1480人が受講した。

 貸し出し図書数も伸び、最近は分館を含め年間70万冊を超えた。住民1人当たり約10冊になる。

 岩波書店を創業した諏訪市出身の岩波茂雄に刺激され、筑摩書房を創業したのが塩尻市出身の古田晁(あきら)。その名は昭和期に多くの出版人を輩出した「出版王国」信州の象徴のように挙げられる。

 長田さんは、街道が交わる地域の歴史的風土と出版文化の結び付きを感じるという。

 信州の地方出版の先駆けは、昭和初期の飯田市で山村書院を起こした山村正夫だ。35歳で急逝するまで、下伊那地域の歴史や民俗関係の本を次々と刊行した。

 その後も、数々の出版社や団体が地方色豊かな本を出してきた。今では書店の減少とともに数少ない存在になりつつある。

 長野市で龍鵬書房を営む酒井春人さん(71)は、古代から近現代まで国や地域の歴史を掘り下げる本を出し続けたいと気を吐く。

 今月新たに「長野県近現代史論集」を発刊した。460ページ余の250部。長野県近代史研究会が編集した。県内外の歴史研究者らでつくる研究会は、この本を残して半世紀余の活動を閉じた。

 郷土研究書籍の購買層が限られるのは山村の時代も同じだった。酒井さんも赤字を覚悟するが「後世に残す意義のある本だから」と意に介さない。冊子編集などの仕事を可能な限り請け負いながら、さらに次のテーマを練る。

 歴史を形に残そうとする人たちも読書文化を支える。県内は郷土誌の発行や自費出版も盛んだ。研究者と作り手の思いがこもった貴重な記録に注目し続けたい。

 来週から読書週間が始まる。周りの人と本を話題にしてみよう。本屋さんや図書館の人たちと身近な本について話をしよう。

 入り口は限りない。本の森を訪ね、広がる世界を楽しもう。

(10月18日)

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October 18, 2020 at 07:06AM
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