「まち・ひと・しごと創生基本方針2020」では、経済団体や東京の大企業等との連携の下、地方、東京に立地する企業、働き手にとってメリットのあるリモートワークやサテライトオフィスの在り方を検討するとともに、政府系機関におけるリモートワークの方向性について調査検討を進め、しごとの地方移転と社員等の地方移住を推進するとしています。半年間にわたり12の中核都市について「移住と暮らし」という視点からさまざまな都市の実態をお伝えしてきましたが、地方都市への移住を考える上で参考にしていただければと思います。最終回12回目は京都府「京都市」です。
市民生活を最重要視し、持続可能可能な都市を目指す
現在も新型コロナウイルスは収束を見通せていませんが、京都市は7月27日から中小企業のIT化を後押しする「中小企業等IT利活用支援事業」の募集を行いましたが、申請件数は当初想定を大幅に超える236件に上ったといいます。同事業は「非接触」や「3蜜回避」が求められるなか、IT化を進めようとする中小企業を支援するもので、顧客管理や決済システム構築、商品販売サイトの開設といった事業に補助金を支出しますが、上限額200万円でした。
さて、第12回で取り上げる京都市は全国のビジネスパーソンを対象に「快適な暮らし」や「生活の利便性」、「生活のインフラ」など8分野で調査した日経BP総合研究所がまとめた「住みよい街2019」で、都道府県庁所在地では10位でした。関西エリアでは大阪府に次いで2位。「街の活力」の項目が最も高く、以下、「医療・介護」、「自治体の運営」、「生活インフラ」などが続きますが、「快適な暮らし」が都道府県所在地では41位と伸び悩んでいます。
京都府南部に位置し、1200有余年の歴史を持ち、伝統や歴史、文化的な観光資源で有名な政令指定都市でもある京都市は11の区に約147万人が暮らしています。世界有数の歴史都市で、神社仏閣などの歴史遺産が多いことから景観が守られ、街全体が古都ならではの落ち着いた雰囲気をたたえています。世界中から観光客が訪れる人気の都市とあって、JRや私鉄、市営地下鉄といった鉄道や市バスや民営バスが市内を網羅しており、交通アクセスに優れています。
京都市は山に囲まれた盆地のため、夏は極端に暑く、冬は厳しく冷え込み、年間を通じて湿度が高めで、昼夜の寒暖差が大きいという特徴があります。年間の雨量が非常に多く、最も乾燥している時期でも雨がよく降り、年間の降水量は1491,3mmで、日照時間の年間合計値は 1,775時間です。京都市の1981年から2010年までの平均気温は下表のように15.9度で、2019年は16.9度と上がってきています。
(資料:気象庁資料を基に筆者作成)
京都府内には空港はありませんが、日本の大動脈を走る東海道新幹線で東京まで約2時間20分という圧倒的な交通環境に恵まれています。市内の公共交通機関は、JRと市営地下鉄のほか、阪急、近鉄、京阪の私鉄各線のネットワークも整っており、鉄道路線が充実し、大阪や奈良など関西圏の周辺都市へのアクセスも良好です。また、市営・民営バスが市内各所で幅広い路線を営業しており、移動をカバーしています。
(資料:国土交通省資料より筆者作成)
年間を通して国内外の観光客が多数訪れ、休日を中心に市内は渋滞することがあるため、中心部では公共交通機関での移動がおすすめです。生活に必要な場所がコンパクトにまとまっており、自動車を使わずに生活できる点も評価が高いものがありますが、渋滞が多い地区を中心に自転車が安全に車道を走行できる環境整備も進められていますし、以前から「歩くまち・京都」を標榜しています。
(資料:国土交通省資料より筆者作成)
市中心部の宿泊施設増加鈍り、商業地の上昇幅やや縮小
3月に国土交通省から発表された京都府の公示地価は、商業地、住宅地、工業地いずれも上昇が続いていますが、京都市の商業地は11.2%上がったものの、宿泊施設の増加ペースが鈍り、上昇幅は前年の13.4%からはやや縮小しました。近年、インバウンド景気に沸いて好調だった観光業が商業地の地価を押し上げてきましたが、中心部から周辺部へと用地需要が広がる傾向がみられます。住宅地は、前年に比べ上昇幅はやや縮小したものの、引き続き上昇しています。
(資料:国土交通省資料より筆者作成)※カッコ内は前年実績
また、京都市の事業所数は約7万4千、従業員数は約74万人ですが、事業所数、従業員数ともに全国の市町村ランキングで7位、関西圏では大阪市に次いで2番目です。産業別の市内総生産(2016年)では、「製造業」の24%を筆頭に、「不動産業」の12.1%、「卸売・小売業」の12%、「保健衛生・社会事業」の8.2%、「専門・科学技術・業務支援サービス業」の7.2%と続いています。
(資料:「平成28年経済センサス」より筆者作成)
京都市では、文化を基軸に京都が培ってきた持続可能な都市を目指すSDGsの理念とあらゆる危機にしなやかに対応し、より魅力的な都市となるレジリエンスの理念を融合。この理念を全ての施策立案の基礎に据え「くらしに安心、まちに活力、みらいに責任」のまちづくりを推進するとしており、全国トップレベルの福祉、医療、子育て支援、教育を更に充実させるとともに、京都の強みを活かした経済政策を積極的に実行するとしています。
(資料:「京都市令和2年度予算の概要」を基に筆者作成)
全国トップレベルの福祉・医療・子育て支援・教育が充実
京都市は男性が5年連続の転出超過になっているものの、女性は前年の転出超過から転入超過へ転じています。市移住サポートセンター「住むなら京都(みやこ)」は土日・祝日も電話相談を受け付け、東京にも相談窓口を構えています。移住に役立つ情報を集めたサイトも運営しており、各区の特徴や移住の進め方のステップも詳しく解説しています。また、「京都移住コンシェルジュ」が東京・大阪・京都の3拠点に窓口を設置し、無料相談を受け付けています。
(資料:総務省統計局の「住民基本台帳人口移動報告」を基に筆者作成)
7年連続での待機児童ゼロの継続に向けた保育所等の受入枠拡大や保育の担い手確保など全国トップレベルの少子化対策と子育て支援の更なる充実が図られているほか、中学校3年生までが対象の子ども医療費の助成は所得制限がありません。保育や就学など子育てサポート情報は「京都市子ども若者はぐくみウェブサイト」に掲載されているほか、「京都はぐくみアプリ」を利用すれば子育て関連イベントや京都市の子育て支援施策等の情報が手軽に受け取れます。
(資料:京都市HPより筆者作成)
子育てしながら働きたい女性を支援する「マザーズジョブカフェ」が市内で運営されており、保育ルームも備えているので、子どもを連れて就業相談をすることができます。再就職支援のための専門家によるカウンセリングや、ハローワークによる職業相談や職業紹介といった支援事業のほか、保育園・幼稚園、認可外保育園などの情報提供も行っています。また、子育てをしながら仕事を探している方には「マザーズハローワーク」があります。
(資料:厚生労働省資料より筆者作成)
京都府内の医師数は8377人(2018年)と高水準ですが、市内には重篤救急患者を対象とする救命救急センターが4ヵ所にあるほか、地域のかかりつけ医と京都市立病院との連携の窓口として「地域医療連携室」を開設されています。また、症状やエリア別に今すぐ診療してもらえる病院がわかる「京都健康医療よろずネット」が運営されています。ドクターヘリは市内の救命救急センターとして唯一ヘリポートを有する京都第一赤十字病院に配置されています。
森記念財団都市戦略研究所が経済規模や文化度などを都市力として72都市を対象にした「日本の都市特性評価」によれば、京都市は「世界の文化都市」との高評価から総合ランクで堂々の1位でした。文化・交流分野におけるハード資源やソフト資源、交流実績に研究・開発分野でも1位であるほか、経済・ビジネス分野や交通・アクセス分野においていずれも9位とトップ10に入っています。
文化財や世界文化遺産が非常に多く、歴史や文化を感じながら生活ができ、学校が多い点も特徴で、人口あたりの大学数は全国トップですし、市民の約1割が学生といわれます。全国から学生が集まることから多くの移住者を受け入れてきていますが、文化や芸術などとの触れ合いも多く、新たな出会いや新しいことが起きる雰囲気に満ちているといえ、京都ならではの市民力と地域の多様な魅力と個性を活かして同市では移住が促進されています。
古都でありながら数々のベンチャー企業が世界的な大企業へと発展してきた京都は、「ものづくり都市」ともいわれています。ベンチャーや起業、成長産業の支援などにも熱心で、活力が満ち溢れ、人やビジネスを惹きつける寛容な都市であり、「起業するなら京都」といわれるほどに持続可能なスタートアップ環境が整備されている京都市は地方都市への移住を考える上で有力な候補地の一つといえるのではないでしょうか。
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September 25, 2020 at 05:15AM
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