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日本の文化政策に最適なモデルとは? 世界の現状から考える(美術手帖) - Yahoo!ニュース

 コロナの影響を受け、2020年3月に予定されていたアートフェア東京、アート・バーゼル(香港)や同年6月のアート・バーゼル(バーゼル)などの世界中のアートフェアが相次ぎ中止となった。  2019年の調査ではアートディーラーの年間売上のうち約45パーセントをアートフェアによる売上が占めるとの推計が公表されており、コロナはアート界にも多大な影響を及ぼしている(*1)。  東京都が実施する「アートにエールを!東京プロジェクト」 のような一時的な支援策はもちろん必要だが、アート分野に関する長期的な文化政策についても改めて考えるべき時期なのかもしれない。 パーセント・フォー・アート(Percent for art)  アートに関する文化政策としておそらくもっとも有名なものは、パーセント・フォー・アートプログラムだろう。パーセント・フォー・アートは、公共建設事業の予算のうち1パーセントをアートにあてるという政策である(パーセンテージは1パーセントが多いが、現在では実施機関によって0.5パーセントから2パーセント程度の幅がある)。  1930年代の大恐慌下で実施された米国のニューディール政策において、建設総工費の約1パーセントをアートに割り当て、作品を設置するプログラムが行われたことが原型となったと言われる。  ニューディール政策における政府芸術プログラムについては、「 ハンス・ウルリッヒ・オブリストが提唱する『新しいニューディール政策』。新たな社会的想像力の時代に向けて」で詳細に紹介されている。  その後、このプログラムは1943年に終わるが、1962年に連邦施設管理庁のFine Artプログラムにより、連邦政府ビル、裁判所の新築、増改築をする際に、建設総工費の1パーセントを芸術作品の費用にあてる指針が策定されることになる。1972年には建築アートプログラム(Art in Architecture)と名称変更されて現在に至っている(*2)。1972年以来、シカゴ市のジョン・C・クルチンスキービルに設置されたアレクサンダー・カルダーの《フラミンゴ》など、490を超えるアート作品が全米の連邦ビルに設置されている(*3)。  そして、この流れが地方自治体に取り入れられていく。2018年8月に公表された非営利団体Americans for the Artsの調査によれば、全米で実施されているパブリック・アートプログラムは、728にも上る(回答があったのは227のプログラム。なお、2001年の調査では全米のパブリック・アートプログラムは350と推計されていた)(*4)。   パブリック・アートプログラムのうち、46パーセントがパーセント・フォー・アートを取り入れているとの調査結果となっており、公的機関のパブリック・アートプログラムの66パーセントがパーセント・フォー・アートをひとつの財源としていることが明らかになっている。  パブリック・アートプログラムの開始時期は、44パーセントが2000年以降、37パーセントが1980年から1999年、1980年より前が19パーセントとなっており、2000年以降により一層パーセント・フォー・アートを含めたパブリック・アートプログラムの有用性について社会的なコンセンサスが形成されていったと言ってよいだろう。  パーセント・フォー・アートを最初に取り入れた地方自治体は、1962年の連邦施設管理庁によるFine Artプログラムに先立つ1959年のフィラデルフィア市であった。ニューヨーク市では意外と導入は遅く、1982年に開始された。  ニューヨーク市のパーセント・フォー・アート第1号プロジェクトは、イースト・ハーレム・アートパークに設置されたホルヘ・ルイス・ロドリゲスの《Growth》(1985)である。  ニューヨーク市のパーセント・フォー・アートにより、2017年時点で、350を超えるプロジェクトが実施されたと言われる(*5)。  そして、パーセント・フォー・アートの開始から35周年にあたる2017年にはパーセント・フォー・アートに当てられる金額を増額する改正がなされた。  それまで、はじめの2000万ドルの1パーセントをアートに割り当てるとされていたが、改正によりはじめの5000万ドルの1パーセントとされ、大きな予算の増額となった(*6)。このように、ニューヨーク市では、パーセント・フォー・アートプログラムを強化して推進している。  また、パーセント・フォー・アートと関連して忘れてはならない重要な政策は、独立政府機関として1965年に設立された全米芸術基金(National Endowment for the Arts)である。全米芸術基金は、地方自治体、非営利民間団体などに対して、美術に限らず、舞台芸術、メディア、デザインなど広く芸術分野の活動(プロジェクト)に関する補助金をマッチング・グラント方式(民間からの資金を一定程度集めることを条件に補助金を交付する方式)などにより交付して助成を行っている。 民間からの寄付と非営利民間団体によるプロジェクト  米国の特徴として、非営利団体の活動が非常に活発であることも挙げられる(*7)。ニューヨーク市では、非営利民間団体であるパブリック・アート・ファンド (1977年設立)とクリエイティブ・タイム(1973年設立)などがパブリック・アートプロジェクトを数多く手掛けている。  これらの団体の活動は、パーセント・フォー・アートといった公的資金ではなく、民間からの寄付(全額控除可能)を主な資金源として行われている。  パブリック・アートというとパーマネント(期間の定めのない恒久設置)と思われるかもしれないが、パブリック・アート・ファンドやクリエイティブ・タイムのプロジェクトはテンポラリー(期間の定めのある一時設置)のものが中心という特徴がある。  例えば、西野達の《Discovering Columbus》(2012)は、パブリック・アート・ファンドのプロジェクトである。  《Discovering Columbus》は、マンハッタンのコロンバスサークスに長年設置されていた探検家クリストファー・コロンブスの像を人工的につくったリビングルームで囲うインスタレーションである。人々は普段とまったく異なる空間で、コロンブス像を発見することになる。  筆者もニューヨーク滞在中に訪れたが、普段気に留めていなかったコロンブス像をリビングルームで目の当たりにすると、大人も子供も笑顔になっていた。アートの魅力、楽しさをストレートに伝えてくれる作品だと思う。  以上のように、米国ではパーセント・フォー・アート、全米芸術基金といった公的資金と民間の資金が組み合わさって、文化を発展させる土壌を形成している。 シンガポールの文化政策  次に、アジアの事例としてシンガポールの文化政策も見てみよう。シンガポールでは追及権もパーセント・フォー・アートも導入されていない。しかし、アートに力を入れていないわけではない。  シンガポール政府は、文化芸術のグローバル都市を目指して「ルネッサンス・シティ・プラン」と呼ばれるマスタープランを策定し、2000年から芸術分野に継続して投資を行ってきた(2000-2011)。その後もアート分野への注力は継続して行われており、現在は「Our SG Arts Plan」(2018-2022)という5年のプランを策定して取り組みが行われている。  シンガポールの興味深い取り組みとしては、2014年に国家芸術委員会(National Arts Council)がパブリック・アート・トラスト を設立し、1000万シンガポールドルが拠出されてパブリック・アートプロジェクトの運営を行っている点だ。全米芸術基金とパブリック・アート・ファンドやクリエイティブ・タイムを組み合わせてその運営を政府が行うようなかたちである(パブリック・アート・トラストのプロジェクトはテンポラリーが多い)。  2015年にBaet Yeok Kuan《24 Hours In Singapore》などの3作品がパブリック・アート・トラストのプロジェクトとして設置されたのをはじめとして、現在までに18のプロジェクトが行われている(*8)。  《24 Hours In Singapore》は、観光名所のマーライオン・パークの近くにあるアジア文明博物館前に恒久設置されているので、シンガポールに行った際にぜひ訪れてもらいたい。  パブリック・アート・トラストのプロジェクトは、シンガポールが得意とする民間への税制優遇措置との組み合わせで実施されており、2つのルートが用意されている。  まず、パブリック・アート・トラストに直接現金で寄付するルートがある。この寄付は、文化コミュニティ青年省(Ministry of Culture, Community and Youth)によるCultual Matching Fundの対象となり、これによって寄付者は、寄付した金額の倍額の控除を受けることができる。  2015年11月30日付けの国家芸術委員会のプレスリリースでは、マリーナ・ベイ・サンズから75万シンガポールドル、シンガポール不動産開発協会(the Real Estate Developers' Association of Singapore)から25万シンガポールドルの寄付を受けたことが公表されている(*9)。  パブリック・アート・トラストが主体となって行うプロジェクトは、シンガポール人とシンガポール人以外の外国人アーティストも参加が可能である。また、パーマネントの作品もテンポラリーの作品も対象となる。  次に、パブリック・アート・トラストが制作委託するアート作品に共同出資するパートナーになる方法がある。こちらはシンガポール人または永住権保持者のアーティストに対しアート作品の制作委託をし、私有地に設置することになる。  プロポーザルを提出し、パブリック・アート・トラストによる審査を受ける必要があり、審査が通れば、いわゆるマッチング・グラント方式で制作費用の50パーセントをパブリック・アート・トラストが出資する。また、こちらも共同出資した民間のパートナーは、出資した金額の倍額の控除を受けることができる。  なお、作品の所有権は、パブリック・アート・トラストに帰属し、作品のメンテナンスもパブリック・アート・トラストが行うことになっている。 日本に最適な文化政策は?  2019年のアートマーケットの規模は、約6兆7500億円(約641億ドル)とされている。米国、英国、中国がトップ3を形成しており、日本は「その他」に分類される現状にある(「 2019年の世界美術品市場の規模は約6兆7500億円。ブレグジットや米中貿易戦争の影響で5パーセント減」参照)。  これに対し、2019年の音楽マーケットの規模は、約2兆1530億円(約202億ドル)であり、日本は米国に次ぎ世界2位につけている。  上記の数字だけでは厳密な比較はできないが、日本の経済規模から考えると、このアートマーケットシェアの現状はやはり寂しい(*10)。  日本でも1970年代後半から1980年代にかけて神奈川県などでパーセント・フォー・アートのような制度が実施された時期があったが、定着するには至っていない(*11)。  文化政策には絶対の正解はなく、最適解を目指すことになる。本稿は、パーセント・フォー・アートやシンガポールのパブリック・アート・トラストのような制度を導入すべき、という提言ではない。  しかし、先行事例のある様々な選択肢を検討し、日本にとってどのような取り組みが最適なのかを見極めることは必要だろう。そして、やがては日本モデルが世界に発信されるようになることをぜひ目指したいところである。   *1──Art Basel & UBS Report, The Art Market Report 2020, p.193 *2──米国のパーセント・フォー・アートの歴史については、工藤安代『パブリックアート政策』(勁草書房、2008)が詳しい。 *3──U.S. General Services Administration *4──Americans for the Arts, 2017 Survey of Public Art Programs, August 2018 *5──Lauren Lloyd, NYC increases Percent for Art program funding for the first time in 35 years, The Architect’s Newspaper, February 20, 2017 *6──Mayor de Blasio Sings Legislation Increasing Funding for the Percent for Art Program, the Official Website of the City of New York, February 15, 2017 *7──Americans for the Arts, Arts & Economic Prosperity 5, 2017 *8──パブリック・アート・トラストのウェブサイトで、パブリック・アート・トラストのコレクションを検索した結果、18作品が検索結果に表示された。なお、《The Rising Moon》と《24 Hours In Singapore》がパーマネントの設置であり、その他はテンポラリーの設置である。 *9──National Arts Council, First Three Public Art Trust Installations by Renowned Singapore Artists, November 30, 2015 *10──なお、経済的な効果は二次的な位置づけであり、芸術的な効果を最大限に発揮することに力点を置くべきだとしても、経済的効果はひとつの指標としては欠かせないだろう。吉本光宏=片岡真実「芸術は都市をよみがえらせる-米国における芸術の経済効果とパブリック・アートを中心に」ニッセイ基礎研究所調査月報1994年9月36頁参照。 *11──WIPジャパン株式会社「『文化政策に充当する財源に関する調査研究』報告書」(平成26年3月31日)

文=木村剛大

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August 23, 2020 at 05:07AM
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