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「文化の盗用(Cultural Appropriation)」、その不完全な用語が担うものとは。【コトバから考える社会とこれから】 - VOGUE JAPAN

「文化の盗用」、その是非の境界はどこに引かれるべき?

民主党のナンシー・ペロシ下院議長らが、連邦議会議事堂の広間で8分46秒間膝をつき、全米から世界へと伝播したBLM運動の引き金となった事件の被害者であるジョージ・フロイド氏に哀悼の意を捧げた。その行為自体に他意はないのだろうが、ガーナの民族衣装であるケンテが生まれた複雑な背景やケンテが持つ意味を踏まえずに、白人議員たちがそれをこの場で纏うことに違和感を感じた人々から、「文化の盗用」では?との声も上がった。Photo: Getty Images

「文化の盗用」は昨今、学術的にも「支配的な立場にある文化が、マイノリティーの文化から、同意を得ずに比較的重要な何かを奪うこと」という否定的な意味で使われることが多い。

ただし本来の定義は、「ある文化の何かを、別の文化に属する人が自分のものにすること」だ。ビクトリア大学哲学科のジェームズ・O・ヤング教授は著書『Cultural Appropriation and the Arts(原題)』で、文化の盗用のさまざまな形態と批判を考察し、出典を示すことの重要性を強調する。さらに、「ほぼすべての文化に属するアーティストは、様式や物語やモチーフなどのコンテンツを他の文化から借用し続けており、ほとんどの場合は不当な侮辱行為とはいえない」と結論づける。

《アビニヨンの娘たち》(1907年)は、パブロ・ピカソがアフリカ彫刻に興味を持ち描いた作品とされる。晩年、制作に励むピカソを捉えた写真にも、アトリエの壁面を飾る同シリーズが確認できる。Photo: Getty Images

《アビニヨンの娘たち》や、「ウォーターメロン・マン」は、異文化のエッセンスを取り込みつつも、今も傑作と讃えられる。一方で、ケイティ・ペリーがMVでコーンローを披露すれば謝罪に追い込まれ、世界的にファン層を広げているK‐POPアーティストの多くは、ファッションや音楽性が、常々ブラックカルチャーに対する「文化の盗用」ではないか、という批判を受けている。当事者意識を持ち、どこに線を引くかを一人ひとりが考え続けるべきだろう。

哲学者でサウサンプトン大学講師のニルス=ヘニス・スティア氏も、「敬意をもって注意深く文化の盗用を行った結果、美学的価値に優れ、人類に有益な作品が生まれることもある」と指摘する。ピカソはアフリカの仮面をモチーフに《アビニヨンの娘たち》などの傑作を描いた。スティア氏によれば、文化の盗用が倫理的に正しくないと見なされるのは、「権力の不均衡がある」「その文化に属するマイノリティーの同意がない」「その文化に属する人たちが間違って表現される、ステレオタイプ化される、または名誉を傷つけられる」といった場合だ。

全米で話題のベストセラーも「文化の盗用」となるのか。

1月に刊行された『American Dirt』はメキシコからアメリカへの不法移民の体験を描いたベストセラー小説だ。だが、白人の著者ジャニーヌ・カミンズによる登場人物の描き方に不満を抱いたラテン系作家たちが、「文化の盗用」だと批判、物議を醸している。オプラ・ウィンフリーが多数の作家から抗議を受けながらも、自身の人気ショー「Book Club」で本書を取り上げたことも話題に。写真は刊行直後、オプラらと情報番組で談笑する著者(中央左)。Photo: Getty Images

文化の盗用がすべて間違っているわけでも、正しいわけでもない。

この言葉の濫用に警鐘を鳴らし続けてきたロンドン在住のジャーナリスト、アッシュ・サーカー氏は「不完全な用語だから、よく考えて使う必要がある」と警告する。「誰が利益を得ているか」、そして「背後に存在する人々に敬意を払っているか」を考えることが必要だと説き、「少数民族の文化を引用した作品に、その民族の誰も関わっていないとしたら、それはやはり問題です」と語る。「支配的な文化は、周辺化されたマイノリティーの文化について無知のまま搾取している傾向にある、という事実は認めるべきだ。ただし、ハラスメントや人種差別と同様、された側が不快感を覚えたらすなわち文化の盗用なのかといえば、それは間違いだ」とも指摘する。「文化は目に見えない複雑な背景から生まれます。つい感情的になりがちですが、だからこそ冷静で建設的な対話が必要です」

ときに間違って使われるが、支配的な文化への抑止力になり、変化を起こすために有意義な言葉。それが「文化の盗用」なのだ。

そこで最終的に問われるのがクリエイションの質の高さだ。「批判とは対話のきっかけであり、いい批判も間違った批判もあるのが常」と主張するサーカー氏いわく、「文化の盗用」のレッテルを貼られないよう、つくり手が心に留めておくべきことは2点ある。「第一に、十分なリサーチをすること。作品を発表するうえで不当にクレジットや利益を得ることがないように。第二に、批判を受けたら、それは自分の作品をよりよくするチャンスだと謙虚に受け止めることです」。これは、知的で真のオリジナリティーを持つ創作のための普遍的な心構えでもあるはずだ。

Text: Reina Shimizu Editor: Yaka Matsumoto

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August 31, 2020 at 10:00AM
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