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[寄稿]コロナ禍の中の人文学教育(ハンギョレ新聞) - Yahoo!ニュース

 新型コロナ・ウィルスが引き続き全世界を席巻している。5月29日の時点で、累計感染者数は600万人に迫り、死亡者数は35万人を超えた。うち米国の感染者は170万人、死者は10万人を突破、ブラジルでは感染者が急増し44万人を超えたという。(5月28日ジョンズ・ホプキンス大学集計)中国・韓国では第一次流行の頂点を過ぎたように見えるし、日本でもどういう理由にせよ、今のところ最悪の感染爆発はどうにか回避しているが、世界的には先が見通せない状況が続いている。とりわけブラジルをはじめとする中南米がパンデミックの新たな発生源となろうとしている。  現在大学の授業はすべてオンラインで行われているが、私はこれが苦手である。私が「芸術学」の授業で取り上げる作家や作品は必然的に疫病と深く関連している。過去を振り返れば人の世が疫病に襲われ、死の濃い影に覆われている時に、優れた美術作品が制作された。前回本欄で取り上げたピーテル・ブリューゲルの「死の勝利」もそうである。今回は、20世紀初頭ウィーンの画家エゴン・シーレの「死と乙女」を紹介しておこう。 【図】←삽화 도판에 대해서 최재혁선생께 상의하세요.  シーレの作品は第一次世界大戦当時の1918-1920年に大流行したインフルエンザ(俗称「スペイン風邪」)の中で描かれた。この疫病のため1918年から1920年末までに世界中で全人口の4分の1程度に相当する5億人が感染し、死者数は1,700万人から5000万人とする推計が多い。人類史上最悪の感染症の1つである。シーレ自身もこの病に命を奪われた。  「死と乙女」は、美しい乙女を死神が無理やりに連れ去ろうとする中世以来の伝統的図像である。ペスト大流行と軌を一にして起こった「メメント・モリ(死を忘れるな)」という呼びかけは、現世の繁栄や隆盛は一時的なものである、誰もがいつかは死ぬのだ、そのことを忘れるなというキリスト教教義に基づいている。だが、20世紀初頭のこの絵では、役割が逆転してむしろ乙女が死神にしがみついているように見える。死神はシーレ自身であり、「乙女」として描かれているのはその恋人ヴァリー・ノイツル。ヴァリーはシーレに別れを告げられ、看護師として第一次世界大戦に従軍し、病死した。「スペイン風邪」の大流行は現在の新型コロナ禍と非常に類似している。歴史の教訓によると、こういう出来事に連動して起こるのは不況であり、ファシズムや戦争である。  なぜ疫病の惨禍の中でも人間は芸術を必要とするのか、なぜそこから優れた芸術が産み出されるのか。その理由は人間たちが、「逃れがたい死」の気配をひしひしと感じながら、死の意味を(とりもなおさず生の意味を)自らに問わずにはいられないからだ。そこに否応なく「人間」についての根源的な問いが内包されているからである。  格差社会であればあるほど、災厄は貧しい者、弱い者、孤独な者など「社会的弱者」に大きな犠牲を強いる。アメリカでは人種別の統計で白人系に比して明らかにアフリカ系、中南米系の罹患率、致死率が高いという報告も、このことを物語っている。「ウィルスは被害者を選ばない」などと言われるが、実際には、そうとばかりは言えない。むしろ、このような災厄の中でこそ階級的、人種的、性的その他の様々な差別があらわになる。米ミネソタ州で29日、警官が無抵抗のアフリカ系男性の首を膝で圧迫して死亡させた事件があり、現在全米で激しい抗議運動が起こっている。運動は反トランプ政権の色彩を強めつつあり、トランプは軍を出動させて鎮圧すると威嚇している。この事件は「コロナ」とは直接関係がないように見えるが決してそうではあるまい。  大学で教える身として、私が気の毒に思うのは学生たちである。入学金や授業料は支払ったのに、授業はすべてオンラインとなった。アルバイトも思うにまかせず、就職活動もできず、生活に困窮して退学を検討せざる得ない者もいる。教育というのは同じ空間をともにし、顔と顔を合わせ、声を聴いて対話すること(「身体性」)が基本だと私は考えている。同じテクストで講義しても担当する教員個々人のもつ説得力に違いがあるとすれば、それはこのような「身体性」に起因するであろう。私の担当する「芸術」のような、人文系の科目ではとくにそうである。霊長類研究の第一人者である山極寿一京都大学総長が強調していることだが、人類のコミュニケーションにとって言語を超えた「生身の身体感覚」はきわめて重要である。人は言語化された情報のみによって何らかの判断を下すのではない、相手の表情、身振り、声の調子などの積み重ねから信頼感を(あるいは不信感を)育むのである。山極は「音楽」の意義を強調するが、それに劣らず「美術」も重要であると私は言いたい。  美術史的あるいは技法的な情報や知識はいうまでもなく重要だが、学生には作品そのものと向かい合って、そこから言語的情報を超える(その範囲をはみ出す)ものを感じ取ってもらいたい。例えばミケランジェロに関する研究や情報は必要かつ有益であるが、それは実作品(例えばロンダニーニのピエタ)が私たちに直接与える感銘にとって代わることはできない。そのことはゴヤであれ、ゴッホであれ、同じである。学生にはできるだけゆっくりと、自由な精神で作品と対話し、他者(教員である私や他の学生)の感想や意見に触れることによって言語情報だけでは気付くことのできなかった発見をしてもらいたいのである。  これが私が行ってきた人文学教育としての「芸術」の基本的アプローチであるが、いまそれが根底から脅かされている。美術館もほとんどが閉館中だ。緊急避難としてのオンライン教育の必要性やその利点まで否定しようとするつもりはないが、それでも、いま続いている事態は長期的にみて教育に破壊的な影響を残すだろう。それは人と人との繋がり、他者との関係によって形成される人間性という概念を破壊するかもしれない。現在をAIなど先端技術の全面的な導入の好機と唱える者もいるが、私は到底そんなに楽観的になれない。傷つけられると痛いということを身体的な感覚で想像することができ、その想像を他者と分かち合える存在がいなくなると人間社会はどうなるだろうか。それは強者による弱者支配、侵略や戦争にとってきわめて好都合な社会であろう。  いうまでもなく、破壊的な影響は教育の分野だけではない。これから来る世界的規模での大不況もそれに拍車をかけるだろう。今回のパンデミックはきわめてグローバルな現象であり、世界各国は自国中心主義ではこの災厄に打ち勝つことはできないのだから、これは分断から新たな連帯への好機なのだ。かならずその好機にしなければならない。だが、現実はそれとは逆の方向に動いている。トランプ米大統領は29日、米国が世界保健機関(WHO)との関係を解消すると表明した。11月の大統領選挙を前に、自己の失政への批判の矛先を転嫁する目的だと見られている。これなどは、国際社会(とりわけ米国自身)が長年かけて培ってきた公衆衛生上の国際協力の枠組みを破壊する宣言というしかない。資金や人力の不足から必要な援助を受けられずに命まで落とす人が増えるだろう。人間は疫病によってだけではなく、人間に殺されるのである。  ドナルド・トランプ氏は共和党の大統領候補に選出されようとしていた4年前、〈「メキシコ人の大半は犯罪者だからな、だから壁を作って犯罪者が入ってこれないようにする必要があるのさ。彼らは強姦魔と同じなんだよ。」などと、差別と排外主義を煽った。それがかえって支持されブームを招いたのである。このような煽動は、明らかに1948年の「世界人権宣言」に違反する。第二次世界大戦以後の国際社会は、実態はどうであれ理念的建前としては、人権尊重を前提として共有してきた。だがトランプ政権はその前提を過去のものとしようとしている。WHO脱退宣言もこのような一連の平和破壊行為の一環である。  このような行為は枚挙にいとまがないが、もう一つ、パレスチナ問題を挙げておかなければならない。イスラエルのネタニアフ政権はこの7月にもパレスチナ自治区内のユダヤ人入植地を併合する構えである。明らかな国際法違反である。このような横暴がいまあえて強行されようとしているのはトランプ政権の強力な後押しがあるからだ。トランプは米国内のキリスト教福音派などの支持を確保するためネタニアフを後押ししている。  いたるところで傷つけられ破壊された世界は、かりにいますぐトランプ政権が退場したとしても回復までに長いプロセスが必要となるだろう。それどころか11月の大統領選挙前に、米中の軍事衝突という最悪のシナリオもありうると私は思っている。相互依存的な国際社会において大国間の戦争などもはや不可能だというのが「理性的な識者」の声だ。だが、現実はつねに「理性」を裏切ってきた。右派ポピュリストたちはいつも国内政治で追い詰められるとより強硬に排外主義を煽ることを常とする。それが「理性」より有効であることを彼らは学んだのである。疫病、不況、戦争は近代史において常にワンセットで人間たちを襲ってきた。果たして今度だけは例外となるだろうか? 徐京植(ソ・ギョンシク) 東京経済大学教授(お問い合わせ japan@hani.co.kr ) https://ift.tt/30aR0yL

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