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「移牧」が無形文化遺産に その歴史的価値とは(ナショナル ジオグラフィック日本版) - Yahoo!ニュース

2019年に登録。ヨーデルやアルペンホルンが生まれたきっかけにも

 毎年6月になると、ヌンツィオ・マルチェッリは1300頭のヒツジを連れ、農場を後にする。彼の農場は、イタリア中部アペニン山脈の中世のたたずまいを残すアンベルサ・デリ・アブルッツィ村の近郊にある。65歳のマルチェッリは雇っている羊飼いたちと、この地方の伝統的な暮らしに興味をもつ観光客とともに、3日かけて50キロほど山道を歩き、ヒツジの群れを農場のはるか上に広がる高地の草原に連れて行く。  
そして11月になると、マルチェッリと羊飼いたちは、時には農場に滞在する観光客も交えて、ヒツジの群れを農場に連れ帰る。こうした移動は毎年繰り返される。

ギャラリー:今も息づく「移牧」の伝統

 年に2回のこの家畜の移動は「移牧」と呼ばれ、2019年12月11日、ユネスコ(国連教育科学文化機関)によって、極めて重要な人間の文化だと認められ、無形文化遺産として登録された。

 ヒツジとヤギは、約1万年前に人類が家畜として飼いならした最初の動物だ。季節ごとに家畜の移牧が行われていた証拠も、ほぼ同じぐらい前までさかのぼる。イランのザグロス山脈中部のフレイラン渓谷では、1963年に発掘調査をした際、放射性炭素年代測定法による分析を行ったところ、紀元前7050年頃、この一帯に最初の移動放牧者が定住したことがわかった。またフランス南部のオード川流域における発掘調査では、紀元前4500年頃にヤギとヒツジの移動が始まった証拠が見つかっている。

 移牧は、その土地の特徴を形成するのに一役買う。家畜の移動路沿いには、数千年かけて聖堂や教会、宿屋が建てられ、やがて集落が形成されてきた。モリーゼ州では、イタリア有数のトラットゥーロ沿いに古代都市セピヌムが発展した。セピヌムという町の名は、壁で区切ったヒツジの囲いが数多くあったことから、「囲い込む」という意味のラテン語の動詞「セピーレ」が語源になったといわれている

 ヨーデルやアルペンホルン、数多くの民謡や詩、祭りなど、家畜を率いて移動する移牧のおかげで生まれた文化も多い。毎年10月、スペインの首都マドリードで開催される祭り「フィエスタ・デ・ラ・トラスウマンシア」では、羊飼いに率いられた約2000頭のヒツジが市内を通り過ぎる。市の中心部に到達すると、彫像と噴水がある優美なシベーレス広場に集まり、羊飼いたちが祭りを主催する市長に通行料を支払う。これは、1418年にヒツジ1000頭ごとに当時の通貨で50マラベディの通行料を課すと定められたことに由来する。

 スペインからチロル地方、さらにはノルウェーの寒帯に属する牧草地まで、開発や集約農業の影響で分断されがちな地域が多いなか、草地や森林の間を行き来する家畜の移動路の存在が、生物多様性を支えてきたことが、研究で明らかになった。また、家畜の移動路は動物や植物の生息地であるとともに、野生動物が移動する回廊の役割も果たしている。

 移牧を行うスペインの羊飼いの間に伝わる「生態系に関する伝統的な知識」について調べた研究もある。それによれば、何世代にもわたって自然と触れ合う文化のなかで育まれた動植物や自然現象に関する知識のおかげで、羊飼いたちは生態系の変化に巧みに対応し、土地を効率よく管理できていることがわかった。

※ナショナル ジオグラフィック日本版5月号「緑の草地へ、悠久の道を行く」では2019年に無形文化遺産に登録された「移牧」を取り上げます。

文=アレクシス・マリー・アダムズ/ライター

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