新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、政府が公演の中止や延期、規模縮小を要請したのは2月26日だ。「2週間」とした期間を過ぎ、1カ月余を経ても、解除される見通しは立っていない。
多くの人が室内に集まることは感染の恐れを高める。観客や出演者の健康を考えれば、やむを得ない対応ではあるが、長引くとともに現場の苦境は深まっている。
公演を手がけるのは、中小の事業者が少なくない。出演する音楽家や俳優、裏方のスタッフの多くはフリーランスの働き手だ。中止で収入が途絶えれば、経営や生計を直撃する。
ひとたび劇場を閉ざせば、再開が困難になる恐れがあり、それは「演劇の死」を意味しかねない―。劇作家の野田秀樹さんは意見書を公表して訴えた。交響楽団やライブハウスの存続を危ぶむ声も上がっている。取り返しのつかない損失を生む心配がある。
「文化、芸術の灯が消えてしまっては、復活させるのは大変だということは重々承知している」。安倍晋三首相は先週末の記者会見で述べたが、損失の補償には否定的だ。無利子融資のほか給付金を考えるとしつつも、具体的な支援策は示さなかった。
「明けない夜はありません! 今こそ文化の力を信じ、共に前に進みましょう」。宮田亮平・文化庁長官の呼びかけも、何も支援策に触れないのでは、空疎に響く。精神論では乗り切れないと反発を受けたのは当然だろう。
ドイツや英国では支援が具体化している。とりわけドイツは大がかりだ。文化事業に携わる個人や小規模業者に50億ユーロ(およそ6千億円)の財政支援を講じるという。「誰も失望させない」と述べた文化相の言葉に説得力がある。
芸術文化は人が生きていくのに欠かせないものだ。心のよりどころとなって人々を力づけ、生きる希望を与える。社会を不安が覆い、気持ちの余裕を失いがちなときにこそ果たす役割は大きい。
担い手を守ることは政府の責務だ。国の要請で休業を余儀なくされるなら、それによって活動の基盤を失わないようにする手だてを講じる必要がある。同時に、十分な感染防止策を取って活動を続けられる道がないかを考えたい。
(4月2日)
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April 02, 2020 at 07:08AM
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社説 芸術文化の苦境 灯を絶やさぬためには - 信濃毎日新聞
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