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【ヒットの法則192】アストンマーティン V8 ヴァンテージは伝統的スタイルに“洗練”をプラス - https://lrnc.cc/

2005年、フォード傘下に入って復活を遂げていたアストンマーティンは、DB9、V8 ヴァンテージを続けて発表、新しい時代に突入していくことなる。3代目となるV8 ヴァンテージはポルシェ911をライバルとして想定して開発されたという意欲的なモデル、その魅力を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2006年6月号より)

イギリスのサラブレッド中のサラブレッド

クルマが熱烈に好きで、運転の腕前はプロ並み。レースに参戦した経歴もあったりした上に、クルマの歴史や造形などにも精通している自動車会社の経営者のことを、欧米ではしばしば「カーガイ」(Car guy)と呼ぶ。有名なところでは、GMのボブ・ラッツ氏、フォルクスワーゲンのフェルディナント・ピエヒ氏、日本だったらかつての本田技研の川本信彦氏などが挙げられるだろう。

ここ数年、ホットな話題を提供し続け、日増しに存在感を強めていっているアストンマーティンのウルリッヒ・ベッツ社長も、疑うことのないカーガイのひとりだ。

ベッツ氏はポルシェで長年スポーツカーの開発に従事し、最後は開発担当の重役にまで登り詰め、タイプ964の911をまとめ上げた。

BMWに移籍し、ここでもスポーツカーのZ1を作り上げた。ドアがサイドシルに垂直に潜り込む、ユニークなオープン2シーターだ。

その後、ベッツ氏はポルシェに戻って、最後の空冷エンジンを搭載するタイプ993の911カレラを完成させた。その手腕を買われて、韓国の大宇に移り、本格的な自動車生産の立ち上げに参加。そして、現在、ベッツ氏はアストンマーティンの社長の座にある。

1913年に産声を上げたアストンマーティンは、高性能で高品質なスポーツカーとGTを少量生産してきた、イギリスのサラブレッド中のサラブレッドだ。だが、名声とは裏腹に、パフォーマンスと売り上げは少しずつ下降線をたどっていった。オーナーが何人も変わり、最後は、フォードが1987年に吸収した。

画像: 2005年に登場したアストンマーティン V8 ヴァンテージ。DB9より短い全長が特徴の、2シータースポーツ。

2005年に登場したアストンマーティン V8 ヴァンテージ。DB9より短い全長が特徴の、2シータースポーツ。

ロードで、そしてレースで見事な復活を遂げた

アストンマーティンは、フォードの経営資源や技術を巧みに活用し、ヴァンキッシュ以降、新しくて魅力的な新型車を次々と送り出してきている。DB9、V8ヴァンテージと続き、2006年1月のデトロイト自動車ショーには、すぐにでも市販できそうなほど完成度の高い4ドアのコンセプトカー「ラピード」を出展して、世界を驚かせた。

最近、大阪にアストンマーティンのショールームをオープンさせたのに合わせて来日したベッツ氏は、新型車投入の勢いを弱めることはないと語っている。

それによると、今後、V8ヴァンテージのドロップヘッドクーペ版「V8ヴァンテージ・ヴォランテ」、DB9を高性能化した「DBS」と続け、その少し先でラピードを発表するという。2005年の総生産台数が約5000台だったから、これらの新型車群が登場した暁には、相当な台数の増加が見込まれることは間違いない。

アストンマーティンの再興ぶりは、ロードカーだけに止まらない。DBR9というレーシングマシンで2005年のセブリング12時間にセンセーショナルにレースに復帰し、見事、デビューウインを飾った。ルマン24時間でも、ライバルのコルベットC6Rと死闘を演じ、クラス優勝こそ逃したが、強烈な速さと存在感をアピールした。

アストンマーティンは完全に復活した。世界中のスポーツカーファンは、いま大いなる期待を寄せている。そこで、「V8ヴァンテージ」である。これまでアストマーティンでは、ヴァンテージとは高性能版に付けられていた呼称だったはずだが、ノーマル版をスキップして、一気に高性能版を出してきた。ポルシェ・ケイマンSのようなものか。

V8ヴァンテージと対面するのは二回目だ。最初は、昨年5005の東京モーターショー。フォードグループ各社のブースが並ぶ中にあって、アストンマーティンは通路に面した最上席にV8ヴァンテージを大きなガラス板で囲って展示した。

隣のジャガーも、期せずして2006年に発売開始予定の新型XKを同じ向きに並べていた。

2台は、似ているようでいながら、対照的だった。2シーターと2プラス2という座席数こそ違えど、ともにFRレイアウトを持つ高級大型GT。長いボンネットフードにファストバックのキャビンが組み合わせられたシルエットが、よく似ている。

でも、シルエットは似ていても、ディティールが全然違っていた。V8ヴァンテージは、フラッシュサイドボディを採用した戦後のアストンマーティンに共通するモチーフを墨守して、誰が見てもアストンマーティンだとわかるクラシックなテイストを醸し出している。

それに対してXKは、先代XKやEタイプ、Dタイプ、その前のXK120などからデザインイメージを引用しているのだが、受ける印象は現代的で、フレッシュだ。

外観やインテリアから受ける印象が対照的だったように、この2台の走りもまったく違っていた。

手短かに新型XKについて触れておくと、今度のXKで旧型と同じなのは車名だけだ。XJのアルミシャシを進化させ、最新のV8とジャガー初のパドルシフト付き6速セミATが搭載されている。懐深い走りと快適性の高さは、XJのそれをアップデートしたものだ。よく走って、快適。

対するV8ヴァンテージは、クラシックな外観と共通するような走りっぷりを想像していたが、これが全く違っていた。デザインから受ける印象の違いが、クラシック対モダンだったのに対して、運転した後に残る印象は別のものだった。

それは、果たしてどんなものだったのか。V8ヴァンテージは今時の高級スポーツカーにしては珍しく、トランスミッションが6速マニュアルだけの設定だ。新型ポルシェ911ターボが、史上初めてMTよりもティプトロニックSの方が加速タイムが短くなったのとは大違いだ。そんな時代なのに、MTだけでデビューしたV8ヴァンテージは、硬派である。

画像: リアルスポーツカーとして望まれる性格に相応しく、NA仕様のV8エンジンが搭載される。ドライサンプ式のオイルシステムを採用してエンジン搭載位置を低めている。

リアルスポーツカーとして望まれる性格に相応しく、NA仕様のV8エンジンが搭載される。ドライサンプ式のオイルシステムを採用してエンジン搭載位置を低めている。

スポーツカーとしての本質を徹底的に追求

その硬派ぶりは、運転してみるとすぐにわかる。クラッチとシフトが、とても重いのだ。

さらに、現代のクルマのオーバーサーボ気味なブレーキとは大きく異なって、踏力に比例してスピードを殺ぐ力が増していく。パワーステアリングのアシスト量も少なく、操作のすべてが重く、力が要る。こういうクルマは、最近、珍しくなった。

V8ヴァンテージの走りっぷりが、DB9やヴァンキッシュの延長線上にあるものだろうと勝手に想像していたが、全然違っていたので、戸惑ってしまった。

DB9がいわゆるトルコンタイプの6速AT、ヴァンキッシュがクラッチレスMTだから、重たい変速操作からは免れることができる。2台のパフォーマンスは飛び切りなのに、乗り心地やハンドリングには、余裕があふれている。

じゃあ、V8ヴァンテージには余裕がないのかといえばそうではない。タイトな緊張感に包まれているのだ。これは「リアルスポーツカー」だ。

赤信号の続く都内一般道を抜けるまで、重い各操作系統、締め上げられたサスペンションによる固めの乗り心地に身体を揺すられながら、気合いを入れ直すことにした。

高速道路からワインディングロードへと走り出すと、V8ヴァンテージは本領を発揮し始める。

まず、エンジンが4000rpmを超えると、豹変する。低回転域でもトルクが太く扱いやすかった4.3LのV8が牙を剥き、鋭く一気にリミットの7500rpmにまで到達する。速度計とエンジン回転計の間のシフトアップインジケーターを停止からエンジン全開にして2度点灯させるとかなりの速度に達していて、3回目を点けるのにはよほど前が空いていて、安全を確保できる場所ではない限り、ためらわれるほどだ。

380psの最高出力は、もっと大きな排気量のエンジンを搭載するクルマからすれば特別驚くような数値ではないが、山道を走らせてペースを上げていくほどに感じるのは、V8ヴァンテージとの一体感である。

コーナーでは、ステアリングを切ると決して「軽やかに」というわけではないが、機敏に向きを変えていく。加減速を伴う局面でも、ピッチングやロールなどの動きが抑制され、4本のタイヤのトレッド面は、路面をつかんで離さない。

回転半径の小さなコーナーで意識的に急激にスロットルペダルを大きく開けてみても、姿勢も乱さず、タイヤのスキール音も起こさずに、急加速していく。エンジンパワーをタイヤを介して、どこにも逃がすことなく、すべて路面に伝えている。

逆向きのパワー伝達が起こるブレーキング時も、同様だ。前述したように、V8ヴァンテージのブレーキはしっかり踏み込まないと十分に効かないタイプだ。だがその効き具合が、絶妙だ。高速から短い距離で速度を殺すために右足に力を込めて踏むと、V8ヴァンテージはノーズダイブをあまり起こさず、ボディ全体が沈み込んでいく。また、踏み込んだブレーキを少し抜いた時のタッチとクルマの動きが、とても繊細で素晴らしい。

こうした動きは、トランスミッションを後車軸の直前に搭載した、いわゆるトランスアクスルレイアウトによって実現された前後49対51の重量配分によるものだろう。加えて、エンジンのマウント位置が恐ろしく低いことも効いているはずだ。

V8ヴァンテージは、飛ばせば飛ばすほど、ドライバーが腕に覚えがあればあるほど、それに応えてくれるクルマだ。硬派でも、柔軟性のある硬派である。

もうひとつの美点は、日常の使い勝手に優れていることだろう。2シーターであっても、シートの後ろにはジャケットやブリーフケースを置ける棚が設えられているし、センターコンソールやドアなどに収納場所も多い。荷室も、開口部が大きいので荷物の出し入れがしやすい。ドアも狭い角度でストッパーが効く。

V8ヴァンテージの日本での価格は、1455万4000円。5万4000円だけ高いポルシェ911カレラ4S(6速AT)あたりをライバルに想定していることは想像に難くない。キャラクターは何から何まで違うが、見事に911のライバルに仕上がっている。さすが、ポルシェの実力を知り尽くしたウルリッヒ・ベッツ氏だけのことはある。(文:金子浩久/Motor Magazine 2006年6月号より)

画像: 適度な緊張感に満ちたタイトなインテリア。マット調メタルのトリムが印象的。

適度な緊張感に満ちたタイトなインテリア。マット調メタルのトリムが印象的。

ヒットの法則

アストンマーティン V8 ヴァンテージ(2006年) 主要諸元

●全長×全幅×全高:4382×1866×1255mm
●ホイールベース:2600mm
●車両重量:1570kg
●エンジン:V8DOHC
●排気量:4282cc
●最高出力:385ps/7300pm
●最大トルク:410Nm/5000pm
●トランスミッション:6速MT
●駆動方式:FR
●車両価格:1455万4000円(206年当時)

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April 04, 2020 at 05:16PM
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