本連載の最終回のテーマは「脳科学」だ。インサイトの発見力を高めるためには、ユーザーの理解が重要であることをこれまでお伝えしてきた。特に無意識下の行動は、脳科学と密接な関係がある。人の判断は必ずしも合理的ではない。そこを理解することが重要だ。
今回はちょっとしたクイズから始めてみたい。まずは下図を見ていただきたい。濃い黒い丸のどちらが大きいか分かるだろうか。
おそらく、多くの人は左側の黒丸を選んだのではないだろうか。正解は同じである。これは「エビングハウスの錯視」と呼ばれる現象である。この現象から言えることは、あなたの脳はファクトをファクトのままには捉えられず、その背景や文脈によって解釈が変わるということだ。
人は思っているよりも合理的には判断しない
筆者は大学在籍時に経済学を専攻していたが、伝統的な経済学を始めとして、多くの場合、人は合理的・理性的であると信じられている傾向にある。マーケティングの世界でもそれは感じられる。でなければアンケート調査などで、わざわざ合理的に戦略を判断することはないだろう。
一方、認知科学や脳科学の世界では、人の決断は必ずしも合理的ではないことが常識になっている。例えば、2002年にノーベル経済学賞を受賞した行動経済学者ダニエル・カーネマンによれば人の脳による思考方法は2つに分けられる。すなわち感情的、連想的、そして直感的に即時に決断する思考法と、意識的で客観的、その代わりに時間を要して決断する思考法である。
具体的な内容はカーネマンの著書『ファスト&スロー』(早川書房)を読んでいただきたいが、大事なのは人の脳は多くの決断を、直感的に決断する思考法で行っているということだ。そして決断は必ずしも合理的ではなく、むしろ感情的で直感的である。買い物をしていて、必ずしも必要でないものを買っていたという経験は少なからずあるだろう。購買体験でも、人はそうした合理性と異なる判断をしている。
決断しているのは自分ではなく、自分の脳
もう1つ非常に興味深い話がある。ベンジャミン・リベット博士が行ったある実験で、(1)自らの意思で指を動かそうと思った時刻、(2)脳で運動の指令信号が発生した時刻、(3)そして実際に指が動いた時刻を比較した。
普通に考えると、人の脳は順番通りに処理していそうだ。だが実際は(2)、(1)、(3)の順番だったのである。同様の結果はその後も報告されている。この実験から導き出されるのは「人は自分で意識して決断しているのではなく、脳が先に決断をしている」ということだ。そしてその後、意識レベルで理由付けを行っているのではないだろうか。であるならば、マーケティングとは人を満足させるのではなく、脳を満足させることが大事という仮説が成り立つ。
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February 25, 2020 at 03:03AM
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