1年70曲制作で今や2000曲以上 各年のヒット曲をカバー
野口氏資料が残っておらず確かではないのですが、USENが事業を始めた1964年頃から『お琴BGM』はあったと聞いています。ただ当時は、今のようにヒット曲をアレンジするのではなく、『春の海』などいわゆるお琴の定番曲を流していたようです。
岩崎氏その後、今から30〜40年くらい前から自社のスタジオで、ヒット歌謡曲をアレンジしたり、琴のオリジナル曲を作ったりということを始めました。
村田氏(作り始めたきっかけは)クライアントから『もっとバリエーションを増やしてほしい』『雰囲気を変えたものを出してほしい』などの要望があったからと聞いています。市販のCDではまかないきれない部分があり、『ないものを作る』という文化から、自社のスタジオに琴の演奏者を招き、曲を制作するようになりました。
岩崎氏30年〜40年前の音源は残念ながら確認できなかったのですが、小林幸子さんや竹内まりやさんの曲で、94年くらいのヒット曲の音源はありました。その年のヒット曲のリリース状況にもよるのですが、だいたい、1ヶ月に2曲〜6曲くらいのペースで作っています。1年にすると多くて70曲くらい。今、お琴BGMとしては、2000曲以上あります。アーカイブとして今確認できる94年以降のヒット曲はだいたい網羅しています。
ヒット曲には“お琴”に向かない曲も…知られざる制作陣の苦悩
野口氏基本的にはヒット曲、有名な曲。そのなかからお琴にアレンジしても違和感がない曲を選んでいます。音程の高低差が少なく、単調に音符が続いていく曲は原曲で聴くといいんですけど、お琴BGMには向かないですね。ヒット曲のなかにもそういう曲があるので、琴に向かないけど何とかアレンジしてチャンネルに入れるかどうか、判断に悩むところですね。
村田氏ただ、こちら都合で原曲とかけ離れたアレンジはしたくないんです。
野口氏そもそもよく言っているのは、『原曲がわからなければ意味がない』んです。原曲がわかって初めて、『アレンジがいい曲』と認識されるので、聴いてもらう人の『この曲聴いたことがある』という感覚を大事にしています。アレンジが主張しすぎず、心地よくさせる。そのなかでも少し、自分たちの色を出す。そういったものを目指しています。
選曲した楽曲は、1曲1曲すべてに作家を立ててアレンジを施し、大阪の自社スタジオで生演奏で収録。細かい工夫とこだわりを随所に織り込むという。
岩崎氏原曲のキーやテンポ感というのはもちろんあるんですけど、あくまでここは、お琴のチャンネル。だからお琴でいちばんきれいに聞こえるようにアレンジを加えています。例えば、メロディーラインは崩せないですけど、お琴では5音よりも3音の方が流れがいいとなると、音を間引いたり。そういう細かい工夫をやっています。
今から10年くらい前は、曲の途中でラップが入ったり、転調の多い曲がヒットして大変でした。どうしても琴は13本の弦しかないので。でも、そういうアレンジと演奏の難易度が格段に上がる曲をうまくディレクションできたときは、格別です。
“お琴BGM”=日本文化に触れるツールに
村田氏現在、お琴BGMがどれくらい使われているか、具体的な数字は公表できないのですが、使われる場所が、以前のように和食店とか、旅館とか和の雰囲気に合わせた場所だけじゃなくなってきています。『いままでこういうシチュエーションでお琴って考えなかった』というところで流されるケースが増えていますね。
野口氏具体的な例を挙げると、洋風のホテルのロビーでお琴を流すというケース。場所の形式ではなく、『厳か』というシチュエーションにいい、と使われています。
村田氏(有線放送を使う)クライアントが、演出をこだわられる方が多くなってきているという感じがします。あとは外国人のお客様がたくさん来る場所ですね。外国人の方が気軽に日本を感じられるツールとして“お琴BGM”が使われる時代になってきたという印象です。
岩崎氏インバウンドが注目され始め、東京五輪が決定した5、6年前くらいからですね。2020年に向けて準備を始めたのは。
村田氏お琴はスタンダードとしてクオリティーを保ち、制作を続けながら、和風のBGMとして今までやってきたことをベースに新たに、「和風ジャズ」など4チャンネルを立ち上げました。最近では和×ダンスみたいな、別の音楽ジャンルとかけ合わせていくことの面白さが、聴く人にも目新しさを感じてもらえるかなと思っています。
岩崎氏これ以外にも実はすでに新しい展開で動き出しているものもあります。今の段階では詳細は言えないのですが…。楽しみにしていてほしいですね。
2020年、東京五輪・パラ五輪開催でますます注目される日本の文化。そのなかで、“お琴BGM”を含む和風BGMの需要が高まり、耳にする機会も増えていきそうだ。
最新号コンフィデンス2019年11月11日号
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