東京・渋谷の街頭ビジョンでは、新型コロナウイルスの感染予防を呼びかける小池百合子都知事の映像メッセージが放映されている。
撮影:吉川慧
新型コロナウイルス感染症の拡大を受けて、国や自治体はイベントの延期・中止や不要不急の外出自粛を呼びかけ続けている。
ところが、行政の要請に応じて興行を中止した場合に生じる損失の補償制度がないため、文化芸術、エンターテインメント業界などで働く人々からは、補償がなくても「自粛」を決断せざるを得ない状況に不安の声が出ている。
「自粛で収入ゼロ」相次ぐ悲鳴。特別貸付制度はあるが…
3月28、29日は東京都の要請を受け、都内の映画館などが営業休止を決めた。
REUTERS/Issei Kato
政府の自粛要請からはや1カ月。この間にイベントやコンサート、演劇や演芸の公演が次々と中止・延期になった。映画の公開延期も相次ぎ、博物館や美術館も休館し、スポーツも開催延期や無観客試合となっている。この週末の土日には東京都の要請に応じ、都内に4つある寄席定席や大手シネコンなども休業した。
これまでに政府は、日本政策金融公庫を通じて新型コロナウイルス感染症の影響を受けた個人事業主、中小企業などを支援する特別貸付制度を創設した。数年間は「実質無利子・無担保」で融資を受けられるようにし、国税の納付を1年間猶予する制度もある。
しかし「貸付」はあくまで「借金」であり、「交付」ではない。アート、エンターテイメント、スポーツ業界など文化・芸術分野で働く人々向けの補償も現時点ではない。こうした人々の中には、生活の糧を失っている人もいる。
上方落語家の桂あおばさんは2月27日時点のBusiness Insider Japanの取材に対し、落語界ではひと月の仕事(大体10〜15本)のうち「3分の1〜半分ぐらいが飛び始めています」「給料の半分くらいか、それ以上がなくなっている方もいらっしゃると思います」と証言している。
すでに3月末を迎え、家賃や光熱費、ローンなどの支払いに負われる人々の不安も募っている。以下は3月19日にあった政府の個別ヒアリングであがった訴えだ(※議事要旨はいまだ公開されておらず、事務方の説明要旨から引用した)。
「イベントの自粛の要請、フィットネス・ライブハウスの運営の自粛、それから全国の一斉休校の要請という3つの要請で、休業を余儀なくされているフリーランスの方々は、全てではありませんが、その影響を受けているところでは、収入がゼロになってしまうといった状況にもなっている」(フリーランス)
「卒業式など会合に関するお花、花束がキャンセルされている」
「結婚式関係も大変なことになっている」
「音楽スクールも、密閉された防音室で行われているため、換気が行き届かないという理由でキャンセルが続いている」(生花店・音楽レッスン運営)
「臨時休校に伴って、習字教室も休校をしていて、収入が立たなくなっている。個人事業主で賞与もない」
「特別講習を春休みの時期に開催して、それを賞与の代わりにと考えていたけれど、それもなくなってしまった」
「テナント費や光熱費も掛かるので赤字となってしまう」(習字教室運営)
ぴあ社長「すでに発生した損失は1750億円」
矢内広氏が政府ヒアリングに提出した資料。
出典:首相官邸
3月24日、政府のヒアリングに出席したチケット販売大手「ぴあ」の矢内広社長は、新型コロナウイルスの影響を報告。これまでに延期・中止となった興行はおよそ8万1000件、すでに1750億円の経済損失が生じていると指摘した。
このままの状況が続けば損失見込みは総額3300億円にのぼり、これは年間のライブ・エンターテイメント市場規模(約9000億円)の37%にあたるという。
時事通信によると、ヒアリング終了後に矢内氏は報道陣に対して「自粛要請を受けて自らの判断で中止・延期した人たちへの補助をきちんとしてほしい」と訴えた。
安倍首相「税金での補償は難しい」
安倍晋三首相は3月28日の記者会見で、「文化・芸術・スポーツの火が消えてしまっては、復活させるのは大変だということは重々承知をしている」と述べた。
REUTERS/Issei Kato
自粛要請に応じた主催者、企業などへの補償について、行政はどのように考えているのか。まず、日本政府の姿勢を見てみよう。
安倍晋三首相は3月28日の記者会見で、「文化・芸術・スポーツの火が消えてしまっては、復活させるのは大変だということは重々承知をしている」と述べた。
その一方、「損失を補てんする形で、税金でその補償するということはなかなか難しい」と発言。「そうではない補償の仕方がないかということを、今考えている」とし、給付金制度を創設する考えを示した。
文化庁長官がメッセージ、補償の具体的内容はなし
文化庁の宮田亮平長官によるメッセージが波紋を広げている。
文化庁/Atsushi Tomura, Getty Images
文化・芸術・スポーツの振興を管轄する文化庁はどうか。
首相会見に先立つ3月27日、文化庁は宮田亮平長官名で「文化芸術に関わる全ての皆様へ」とするメッセージを発表した。
メッセージの中で宮田長官は、イベントの中止・延期を決断した関係者に向けての感謝の気持ちや、「生活にも大きな影響が出て、文化芸術活動をあきらめざるを得ない方も多数いらっしゃるということも伺っております」と経済的損失について把握している旨を記した。
その上で「日本の文化芸術の灯を消してはなりません」「ウイルスに打ち勝つために、文化庁長官として、私が先頭に立って、これまで以上に文化芸術への支援を行っていきたい」「明けない夜はありません!」と綴ったが、具体的な支援・補償に関する内容はなかった。
メッセージを紹介した文化庁公式アカウントのツイートには「ポエムいらないから、生活かかってる人達に金を出しなさい」といった辛辣なリプライが並んだ。
宮田長官は世界的な金工作家として知られ、東京藝術大学の元学長でもあった人物だ。それだけに、エンターテインメント業界やアート業界に身を置く人々からは、仕事を失っている人々への支援案なが言及されなかったことに失望の声が広がった。
いや、仮にも芸大の学長だった人からこのコメント出しは虚しいよ!!すでにみんな1ヶ月仕事を失ってるんだから一刻も早く補償をしましょうよ!!!(King Gnu・井口理さん)
『コロナに負けるな!』 そのお気持ちはわかりますが、勝ち負けではないでしょう。 「感染しないように」「感染させないように」これが難題ですが、丁寧に出来ることに取り組みませんか? お国は助けてくれる気はなさそうです。残念ながら。(俳優・篠井英介さん)
えっと、何が言いたいのかよくわからない。(現代美術家・渡辺篤さん)
文化庁長官のお言葉。笑わせるぜよ(画家・奈良美智さん)
ただ、そもそも「無い袖は触れない」という文化庁の予算事情もありそうだ。
文化庁の資料によると、日本政府の文化予算は年間1000億円前後で全体予算の0.1%程度。一方の寄附額は6300億円程度。他の先進国と比べて、日本では文化事業にかける国家予算の額は多くない。なお、2020(令和2)年度の予算案は1067億1500万円となっている。
出典:文化庁
小池知事「税金投入には議論があるところ」
小池百合子都知事はイベント主催者への補償について「税金を投入するということについて本当に正しいのかどうか、議論のあるところかと思う」と述べるにとどめた。
東京都公式サイト
感染者が増えている東京都はどうか。小池百合子都知事は、首都・東京の「ロックダウン」に言及した3月23日の会見で、「ライブハウスやスポーツジムなどの施設の利用、そしてイベントの自粛について、引き続きご協力いただきますよう強くお願いを」と述べた。
「感染爆発の重大局面」にあると訴えた25日の緊急会見では、後楽園ホールで予定されていた「K-1」のイベント実行委員会に開催是非を検討するよう要請したことを明かし、K-1側が「無観客試合」で対応することになったと報告した。
ただ、主催者側の経済的な損失の補償について問われると「まず、自粛をお願いする」「補償等については、税金を投入するということについて本当に正しいのかどうか、議論のあるところかと思う」と述べ、現時点では金銭的な補償をする考えはない姿勢を示した。
諸外国ではどうなっている?
ドイツ連邦政府プレスリリース
ドイツでは連邦政府が3月23日、文化・芸術やメディアなどに携わる中小企業や個人に対し、日本円で計7兆円超規模の支援を発表した。
モニカ・グリュッタース文化相は、政府発表に寄せたメッセージで「合意された複数レベルの保護措置は、連邦政府が文化的及び創造的分野におけるCOVID-19のパンデミックによる壊滅的な結果に対抗するため、できる限りのことをする決意を示している」と明言。民主主義社会にとって、多様な文化・芸術に携わる人々の存在が社会にとって不可欠だという姿勢を表明した。
イギリスでも、政府外公共機関の一つで文化・芸術団体の運営などを行う「アーツ・カウンシル・イングランド」(ACE)が1億6000ポンド(日本円で約215億円)の緊急措置資金を提供すると発表した。
テレワーク落語会、署名活動、政府に要望……。でも、自助努力には限界も
もちろん、自助努力の動きもある。例えば、上方落語家の桂紋四郎さんはYouTubeやZoomを利用したテレワーク落語会に取り組んでいる。
苦境を解決するべく行動を起こす人々もいる。営業自粛による損失の助成を国に求めるため、DJ NOBUさんらDJやミュージシャン、ライブハウス関係者などは署名活動 「#SaveOurSpace」をスタート。賛同人には「水曜日のカンパネラ」のコムアイさん、あっこゴリラさん、坂本龍一さんや「ASIAN KUNG-FU GENERATION」の後藤正文さんら著名アーティストも名を連ねる。
署名サイト「Change.org」では、イベント中止・延期に対する政府による補塡を求める署名もはじまった。
日本芸能実演家団体協議会の要望書。公演の中止・延期で深刻な打撃が生じていると、危機感を露わにしている。
日本芸能実演家団体協議会
全国の俳優や舞台演出家などで作る「日本芸能実演家団体協議会」も3月13日付で、公演中止などへの支援を求める要望書を安倍首相に提出した。
要望書では「公演の中止・延期などが既に実演芸術の担い手である実演家やスタッフ、それを支える企業・団体に深刻な打撃」を与えているとし、「これが継続した場合には、実演芸術活動の存続そのものが危ぶまれる」として芸術を支える企業・団体や、フリーランスの実演家・スタッフへの経済的な支援を要望している。
人類にとって未曾有の危機である新型ウイルスの脅威に対し、できる自助努力には限界があるだろう。「『自粛』と『補償』をセットで」と求める切実な声は、日ごと高まっている。
(文・吉川慧)
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March 29, 2020 at 07:50AM
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文化庁長官の“ポエム”に失望も。「補償なき自粛要請」が文化芸術の灯を消す - BUSINESS INSIDER JAPAN
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